
乳がん

40歳のママ。
最近、左のおっぱいの外側に
小さなしこりを見つけました。
乳がん健診を受けたところ
乳腺の石灰化を指摘されました。
石灰化とは、乳管のなかに
カルシウムが沈着することによって
起きる変化のことをいいます。
わたしたちの乳腺は
子宮と同様に生殖器官のひとつなので
毎月女性ホルモンの影響を受けています。
生理前になると乳腺は発達して、
木の葉が生い茂るように
肥厚、拡張、増殖、充血状態になります。
乳腺は生理周期にともない、
このような機能的、構造的変化を繰り返します。
その変化は、
必ずしも毎回乳腺全体に均一におこり、
完全に元に戻るとは限らず、
部分的に強く変化が起きる、
あるいは元に戻りきらない個所ができるなど、
部位によって異なった反応がおきることもあります。
さらに妊娠や授乳によって
その変化はもっと大きなものとなります。
こうしたことが毎月積み重なっていくうちに、
乳腺の中にさまざまな変化を残してしまう可能性が
あるんです。
時には痛みを感じたり、
しこりのように触れたり、
乳頭からの分泌物として気づいて自覚することもあり、
乳腺のレントゲン検査(マンモグラフィー)や
超音波検査(エコー)などに
生理的変化の所見が映り込んできます。
それらを総称して『乳腺症』といいます。
最近では、乳腺症を病気として扱わずに
生理的なものと考えるようになってきました。
乳腺組織の発達および退縮の正常な生理過程なので
「病気」とはちょっとニュアンスが違います。
乳腺症のなかの所見のひとつが
彼女のおっぱいに見つかった『石灰化』です。
無理な断乳をして
母乳が袋のようなもの(のう胞)の中に
溜まってできた乳瘤だったり、
授乳中に乳腺炎を繰り返すことなど、
さまざまな理由で石灰化が誘発されます。
石灰化があると、そこがガンになるのでは?
と不安になりますが、
ただカルシウムが沈着しているだけなので
悪性変化をすることはありません。
ただし、
乳がんが先にあって、
その一部が石灰化することはあります。
石灰化のなかに
初期の乳がんが含まれていることが
多々あるのですね。
なので、石灰化や乳腺症があると
「こまめに乳がん検診を受けましょう」と指導されます。
彼女は、その石灰化した部分を
いろいろと検査したところ、
「正常でもないし、乳がんとも言えない」
という診断結果になりました。
専門的には
ADH(異形乳管過形成)
もしくは
DCIS(非浸潤性乳管がん)
ADHは
がんではないけれど、
それに酷似した小さな病変が乳腺にある
という状態です。
DCISは
乳管の内腔を覆う組織に
非浸潤性の異常な細胞が認められる状態。
異常細胞なんだけど、乳管内にとどまっていて
おっぱいの他の組織には拡がっていません。
彼女の場合、
限りなくADHだと思うけど、
ADHの近くにはDCISが存在する可能性があるので
さらに詳しく調べるため、
病変の摘出手術を受けることを医師から勧められました。
ADHだったとしても、
もしかしたらその中にDCISに移行している像が
見られることもあり、
正常なのか、乳がんなのか
病理医でも判断が難しく、意見が分かれることがあります。
ADHは「前がん段階」とも言われ
将来的に周囲に浸潤がんを発生させる
リスク因子になるという研究結果もあります。
DCISは明らかな異常細胞なので
「非浸潤がん」と呼ばれたりしますが
そもそも「がん」っていうのは
周りの組織に浸潤してはじめて「がん」です。
ステージ1〜4がいわゆる「浸潤がん」であり、
DCISは非浸潤だから、ステージでいうと「0」の段階。
DCISの悪性度によって、低・中・高3つのグレードがあり、
グレードのレベルによって
乳房全切除なのか、部分切除なのか
治療方法を選択していきます。
とはいえ、DCISは非浸潤性だから、
そこだけポコっと取り除けばちゃんと治ります。
彼女の場合、
たぶん、ADH。
仮にもしDCISだとしても、超超超早期の異常細胞。
非浸潤性ということは、転移することはなく
したがって、死んでしまうような病気ではありません。
病院では手術を勧められ、一旦は承諾し、
手術日まで決めてきたけれど、
乳がんを経験された方に
「医師の言うことを鵜呑みするのはどうかと思う。
自分の体のことなんだからちゃんと考えたほうがいいよ。
なんでも切ればいいってことじゃない」
とアドバイスされたそうです。
そう言われると、どうなんやろう・・・疑問が湧いてきて
ほんとに今、手術が必要なのか
切らずに経過観察する選択もあるのでは・・・?
よくわからなくなって
ばぶばぶに来られたのでした。
実際、彼女のようなケースでは、
切除せずに経過観察でいくこともあります。
ほんとにADHだったら、それで問題ないでしょうね。
経過観察なら、定期的に検査していき、
乳がんと診断された時点で摘出手術です。
でも・・・
経過観察のリスクとして
もしも、もしも、がんだった場合
40歳という若さを考慮すると
放置期間が長いだけ、進行してしまっているかもしれませんよね。
彼女には小学生の子どもがいます。
ママとして、まだまだ元気でいてもらわないと!
だから、わたしは彼女に
摘出手術を勧めました。
どうすることが正解なのかはわかりません。
摘出して生検した結果、
「ADHでした」と確定診断されたら
切る必要なかったね〜ってことにはなるけど、
そんなん、結果論じゃないか
と思うのです。
そして、彼女は先日
正常か乳がんか、どっちかよくわからない
グレー病変の切除術を行いました。
退院と同時に
病理検査結果を持って、
ばぶばぶに報告に来てくださいました。
ADHに、やはりDCISが隠れていました。
さらにその中に、
ステージ1の初期浸潤性乳がんが見つかりました。
乳腺外側に限局だと思われていた病変は
乳頭より内側にも微細な異常細胞が
拡がっている可能性があるとのことでした。
当初の診断は
「限りなくADH。でもDCISがある可能性も」
病変切除によって
「ステージ1の初期乳がん」
最初の診断を覆す病理検査結果でした。
医師も
まさかこんなことが、と驚いておられたとか。
あのとき、切除術を決断してくれて
本当に本当によかったです。
放置していたら、彼女の運命は変わっていたかもしれません。
1期の乳がんは浸潤性。
でも、わきの下のリンパには転移していない初期のがんです。
つまり、乳房の外には
拡がっていないと思われる段階なので大丈夫!!
乳がんの石灰化と区別しにくく
誤診につながりやすい乳腺の生理的石灰化は
日々の生活の中で
できるだけ最小限にしておいたほうがいいと思います。
だから、
断乳のときはやっぱり
ケアを受け、残乳処理をしてもらってほしい!
そして、授乳期が終わったら
ちゃんと乳がん健診、行きましょうね。
子どもたちのために。
旦那さんのために。
家族のために。
そして自分のために。
わたしたち女性にとって
乳がんは他人事ではないのです。
乳がんであるとわかった以上、
来月、左乳房全摘出術を行うそうです。
片方のおっぱいがなくなります・・・。
女性として、それは軽く流せることではありませんね。
でも、現代医学では
乳房再建術も飛躍的に進化しています。
なんの励ましにもならないかもしれないけど
ただただ、彼女が笑顔を取り戻せるように
応援したい気持ちでいっぱいです。





